エンターテイナー
真っ暗なステージの上
一筋のスポットライト
うつむいた青年の姿
これから始まる目くるめくステージ
青年は顔を上げ、観客を見渡した。
右腕を広げ、それを体の前に。
膝を折る挨拶をした後、顔を上げた青年からは迷いが消えていた。
「皆さんはじめまして、こんばんわ。僕の名前は・・・どうでもいいことです。それより僕の話を聞いてください」
彼女との出会いは、まだ僕らが学生だったころ。ありたきりな話だけれど、同じサークルの仲間でした。それでまぁ、ありたきりな付き合い、休日には出かけて、一緒に食堂で昼飯を食べて。そんな付き合いが2年半ほど続きました。
ここで、青年は話を止めた。
客席を見回すと、話を再開した。
2年半ほど続いた付き合いはある日突然、本当に唐突に終わりを迎えました。
理由は・・・本当にありたきりですが彼女に、僕のほかに好きな人ができたからです。しかも相手は、僕の親友でした。
搾り出すような声でそれだけ言うと、青年はうつむいた。そして、うつむいたまま話を続けた。
最初から、すべては仕組まれていたんです。彼女は、僕ではなくて、僕の親友に興味があった。彼に近づくために僕と付き合った。そのほうがいろいろと都合がよかったのでしょう。僕は利用された。利用された挙句捨てられたんです。
青年はポケットから何かを取り出した。スポットライトを鋭く反射したそれを一瞥すると、ためらうことなく自身ののどをかき切った。鮮血が飛ぶ。真っ赤に。夕焼けに染まった空のように。