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2008年9月28日

対運命反抗期 against one's own fate

最初はほんの出来心だったといっても過言じゃない。
元からたいした意味なんてなかった。
ただ、このまま流され続けることに嫌気が差して。
少しだけ、流れに逆らってみようと思った。
たったそれだけのこと。

2008年9月 8日

再びカテゴリ追加。

『story』が増えてきたので、『short short story』と『short long story』をサブカテゴリに追加しました。
それ以外は、続き物や、結構長い奴です。
といっても、私のは基本的に短いので、相対的な問題ですがw

顔をつくる。

「どうしてお化粧するの?」
幼い頃、母に尋ねたことがある。

「それはね」
母は、にっこりと笑った。
「お化粧すると、悲しいこともつらいことも、みーんな忘れられるからよ」
当時は、まだ幼すぎて、言葉の真意を理解することはできなかったけれど、今なら分かる気がする。
母は、父の正妻ではなかった。
つまり私は、世間で言うところのお妾さんの子どもと言うことになる。
父親がいないと言うこと以外、平凡な家庭で育ったと自分では思っている。
別段、貧しくも豊かでもない生活をしていたと思う。母が夜遅くまであくせく働いていたとか、水商売をしていたとか、学校から帰るとテーブルの上に手紙とラップをかけた夕飯がおいてあるとか、そんなことはなかった。学校も高校まで公立だったし、短大も、歴史だけが取り柄のような平凡なところだった。
けれども、母は私が義務教育を終了するまでパートにすら出たことがなかった。
つまり、父からそれなりの援助をもらっていたと言うことだろう。
そうでなければ、母はもっと必死になって働かなければならなかっただろうから。
子どもを育てると言うことは、意外とお金がかかるものなのだ。

あの頃の母と、同じ歳になった私は今、涙でにじんだアイラインを直し、マスカラを塗り直している。口紅を引き直すと、鏡に向かって微笑んだ。
「もう、大丈夫」
私は化粧ポーチを鞄にしまうと、テーブルへと戻った。
妻子のある彼との、別れ話を再開するために。

2008年9月 5日

海月

頭の中かで声がする。
「殺せ」
ずっと、ずっと、声がする。
「殺せ殺せ殺せ」
途切れることなく、ずっと。

目が覚めると、天井が見えた。
まだ声が聞こえる気がする。手でぬぐうと泣いていることに気がついた。
半身を起こしてスイッチを切り替える。
感情は、必要ない。
生きていくうえで必要ない。
枷にしかならない。
だから、感情を殺す。
おそらく私は、人間に向いていないんだろう。
あるいは、生きていくことそのものに向いていない。
どちらにしても同じことだ。結果に変化があるわけじゃない。

欠陥品

自分のことを表現するのにここまで適当な言葉もないと思う。
ここまでくると、欠陥品も芸術だと思えてくるから不思議だ。

「くらげになりたい」

なんとなく、口をついて出た言葉がこれだ。
壁に目をやると、何もいない水槽が目に入る。
3ヶ月前まではくらげがいた。
けれども、くらげは死んでしまった。
死んだくらげは、水に溶けてなくなってしまった。
だから、水槽の中には、何もいない。
何もいない水槽の中で、水だけが循環している。

「さみしいな」

いつだったか、くらげの話をきいた誰かがつぶやいた。
もう少し、人間を続けてみよう。

For a finale 第2版

無機質で、音のない廊下。
それはまるで、病院のようで、病院通いをしていた幼いころの記憶を、無理やりに引っ張り出してきた。
ほとんどが誰かを見舞うためだったと思う。決して楽しい記憶ではない。
私は、ある企業の病院のような廊下のある研究施設を訪れていて、半日ほど前に、弔いをしたばかりだった。
たった3ヶ月の命しかなかったものの。
生まれてから、一度も日の目を見ることさえなかった小さな恋心の。


恋なんてものは、往々にしてとても唐突に生まれるものだ。
こちらの準備ができているかどうかなんてお構いなしに、突然。
そして、勝手に生まれてきておきながら、こちらの準備不足を責めるのだ。
準備不足だけじゃない、その不幸な生い立ちさえも責め立ててくる。
だから、恋が生まれるときというのは、がさつで、どろどろとした、品格に欠いたものとなる。
場合によっては、生まれてきたことを、生まれてきた瞬間から後悔され、表に出ることを禁じられ、ずっと、薄暗い部屋の隅に追いやられる羽目になる。
けれども、それが終わるときというのは、薄々ながらも予感がする。
だから、こちらとしても、丁重な弔いをするための準備ができるのだ。
それが、どれくらい生きたかは問題ではない。
どんな風に、生きたかも、問題にはならない。
ただ、優雅に、幕を降ろせるような、準備をするのだ。
取り乱すなど、無様な真似を、決してしてはいけない。
あくまでも優雅に、余裕を持った、毅然とした態度で臨む必要があるのだ。
だから、予感がしてから、一月もかけて準備をした。
何度もシミュレーションして、確認した。
どこにも落ち度はなく、完璧な準備ができた。

けれども、見るも無残な、残骸だけが残った。
今回の弔いは、埋葬というよりは、生き埋めに近かった。
まだ息のあるものを、そのまま土に還そうとしたのだ。
失敗だった。
計画は、完璧なはずだった。
ただ一点を除いて。
生きたまま埋められるものが、素直に従うはずがない。
暴れて、散々抵抗して、お互いに疲弊して、それは終わった。
それが最後に言い残した言葉が、やりきれない後味の悪さを残した。

「大丈夫ですか?」
説明をしていた研究員が私の顔を覗き込んでいた。
「なにやらぼんやりとされていましたが」
「大丈夫です。何でもありませんから。続けてください」
「そうですか。では」
説明を続ける研究員に気づかれないよう、そっと胸に手を当てる。
そこには、一度も日の目を見ることのかなわなかった恋が、埋まっている。

2008年9月 3日

エンターテイナー

真っ暗なステージの上
一筋のスポットライト
うつむいた青年の姿
これから始まる目くるめくステージ

青年は顔を上げ、観客を見渡した。
右腕を広げ、それを体の前に。
膝を折る挨拶をした後、顔を上げた青年からは迷いが消えていた。
「皆さんはじめまして、こんばんわ。僕の名前は・・・どうでもいいことです。それより僕の話を聞いてください」

彼女との出会いは、まだ僕らが学生だったころ。ありたきりな話だけれど、同じサークルの仲間でした。それでまぁ、ありたきりな付き合い、休日には出かけて、一緒に食堂で昼飯を食べて。そんな付き合いが2年半ほど続きました。

ここで、青年は話を止めた。
客席を見回すと、話を再開した。

2年半ほど続いた付き合いはある日突然、本当に唐突に終わりを迎えました。
理由は・・・本当にありたきりですが彼女に、僕のほかに好きな人ができたからです。しかも相手は、僕の親友でした。

搾り出すような声でそれだけ言うと、青年はうつむいた。そして、うつむいたまま話を続けた。

最初から、すべては仕組まれていたんです。彼女は、僕ではなくて、僕の親友に興味があった。彼に近づくために僕と付き合った。そのほうがいろいろと都合がよかったのでしょう。僕は利用された。利用された挙句捨てられたんです。

青年はポケットから何かを取り出した。スポットライトを鋭く反射したそれを一瞥すると、ためらうことなく自身ののどをかき切った。鮮血が飛ぶ。真っ赤に。夕焼けに染まった空のように。

2008年9月 2日

閉幕

終わってしまえば、ずいぶんとあっけない。

予兆は春と引き換えに
始まりは雨とともに
そして
秋の気配が来て、去った

始まりと同じくらい唐突に
しかし、始まりよりも優雅に
ゆっくりと幕は降りる