Sep 5 , 2008
海月
short short story
頭の中かで声がする。
「殺せ」
ずっと、ずっと、声がする。
「殺せ殺せ殺せ」
途切れることなく、ずっと。
目が覚めると、天井が見えた。
まだ声が聞こえる気がする。手でぬぐうと泣いていることに気がついた。
半身を起こしてスイッチを切り替える。
感情は、必要ない。
生きていくうえで必要ない。
枷にしかならない。
だから、感情を殺す。
おそらく私は、人間に向いていないんだろう。
あるいは、生きていくことそのものに向いていない。
どちらにしても同じことだ。結果に変化があるわけじゃない。
欠陥品
自分のことを表現するのにここまで適当な言葉もないと思う。
ここまでくると、欠陥品も芸術だと思えてくるから不思議だ。
「くらげになりたい」
なんとなく、口をついて出た言葉がこれだ。
壁に目をやると、何もいない水槽が目に入る。
3ヶ月前まではくらげがいた。
けれども、くらげは死んでしまった。
死んだくらげは、水に溶けてなくなってしまった。
だから、水槽の中には、何もいない。
何もいない水槽の中で、水だけが循環している。
「さみしいな」
いつだったか、くらげの話をきいた誰かがつぶやいた。
もう少し、人間を続けてみよう。
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