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鴨川奇譚 第二話

「おまっ、こんなところで何して…、いい、とにかく中入れ」

緑のコート、ソノコを立ち上がらせ部屋に入れる。
彼女は無表情のままで、自分からは全く動こうとしない。まるで人形だ。
ソファーなんて高尚なものはこの部屋にないので、仕方なくベッドに腰掛けさせる。

「ソノコ」

何?とでも言いたげにこちらを見る。

「どうやってここまで来た?」
「…電車」

そりゃそうだろうな。江戸時代じゃあるまいし、まさか徒歩のはずがない。

「何で急に?連絡ぐらいくれたっていいじゃないか。しかもこんな時間まで廊下に座り込んで。どれくらいああしてたんだ!」
「…」

無意識のうちに問い詰めていた。ソノコは怯えた様な表情を見せる。

「ごめん。でも危ないだろ」
「…朝一で、でてきた」
「朝一。…っ、今7時だぞ!半日ここにいたって言うのか!?」

こくり。
ソノコは頷いた。

なぜ…。家出でもしてきたのか。それなら納得がいく。家を出ても、友達の家じゃすぐ見つかる。ここなら見つかるまでの時間も稼げるし、すぐに連れ戻されることもないと考えたんだろう。

「ソノコ、詳しいことはいい。明日は土曜日だし、ゆっくり聞くよ。とりあえず今日はもう寝ろ。あ、飯は?俺は食ってきたけど、何か作ってやるよ」
「いらない」

はっきりとした拒絶だった。俺の知らないソノコがそこにいるみたいだった。疲れて気が立っているんだろう。

「もう寝ろ。ベッドは使っていいから」

ソノコが小さく頷いた。それから両手をこちらに伸ばす。まるで抱っこをせがむ子供のように。
何だ、と言いかけた所で腕を掴まれた。引っ張られてベッドに倒れこむ。

「ちょっ、ソノ」

そのままソノコは体勢を変え、俺が下になる。
ソノコの瞳はとても深い色をしていて、とても深く澄んでいた。

全ては、俺の弱さが原因だ。
きっぱりとした拒絶をしなかった弱さ。
朝日が差し込む部屋と、隣で眠るソノコ。
全て俺の…。

選択肢
朝食を準備するのは  
             ソノコ

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