October 2008

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鴨川(仮) 第1話

かつて、ずいぶん遠い昔のことよ。
私には付き合ってる人がいたの。
いいえ。私は付き合っているつもりだった人。
彼の口からは、好きも付き合ってくれも聞かれなかったんだから。
今?
さぁ、どうしてるのからね。

元気にしてますか?
貴方がいなくなっても、こちらは特に変わってないです。
みんな相変わらずだし、世界も相変わらずです。
もう3ヶ月も経つんだね。
今の環境に何の違和感もなく順応している自分が、少し嫌いだったりします。
ご飯はちゃんと食べてますか?
洗濯物とか溜めてないですか?
私の方は…

地下鉄で20分、バスに乗り換え30分。それから徒歩で5分。
会社から自宅アパートまでの所要時間。
夕食は帰り道で済ますこともあれば、コンビニ弁当のこともある。
焼き魚定食を食べるか、味噌ラーメンを食べるか、のり弁を食べるかの違い。
ルーチンってきっと、こういうことを言うんだろう。
形だけのエントランスを通り、ポストの中のDMを備え付けのゴミ箱に捨てる。
コンクリート製の冷たい階段を5階まで上がる。
左から3番目の部屋、鍵を開けて無人の暗い部屋に入る。
何より先にするべきは電気をつけること。
そんなルーチンワークが、今日は違った。

ドアの前に、ある。
なんだか分からないけど、ビリジアングリーンの塊。
塊、じゃない、人だ。
うずくまってる。

「あのー、こんなところで何し…」

この色。
このコート。
知ってる。

「ソノコ…?」

顔を上げる。
無表情にこちらを見上げる。
何か用?そんな風にも見えた。

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