Oct 27 , 2006
最後の晩餐
short long story
お色直しの菫色のドレスの裾を握り締めながら、幼い日の記憶を辿る。
あれは確か、小学生のときだった。公園の花壇で、かがみこんで作業をしている男性がいた。最初は草をむしっているのだと思った。
「おじさん、ご苦労様です」私は彼に声をかけた。「草むしりですか?」
「いいや」彼は答えた。「花を摘んでいるんだよ」
確かに彼は、花壇に咲く花の、花の部分だけを摘み取って袋に入れていた。
「まだ咲いてるのに?」
「こうするとね、花は種ができないだろ?子孫を残せなかった花は、子孫を残すまで頑張るんだよ。だから、花が咲いているうちに摘み取れば、また来年も咲くってわけさ」
「へぇ」
思えば、大学で農学部を目指した最初のきっかけはそれだったのかもしれない。
「おめでとう、スミレ。幸せになるんだぞ」
「お父さんもお母さんも見守っているからね」
にこやかな笑顔で父と母が言う。
「お母さん、お父さん…」
親子3人水入らずで夕飯の食卓を囲みながら私は思わず涙ぐむ。
明日、私はお嫁に行く。相手は大学で同じゼミだった春夫さん。私が大学に進学するときは、あれこれ理由をつけて反対した両親だったが、今となっては「いい人が見つかってよかった」などと言っている。
「私、絶対に幸せになるからね」
必死に涙をこらえながら、私は父と母に言った。
空までが私を祝福してくれているような青空の下、私は春夫さんのお嫁さんになった。
父と腕を組み、バージンロードを歩き、春夫さんと指輪の交換。式はつつがなく、そして穏やかに進行した。
披露宴、菫色のドレスにお色直しした私は春夫さんの横に立って、両親への手紙を読み上げる。
「…お父さん、お母さん、今まで本当にありがとうございました」
手紙を読み終わると司会の男性が口を開いた。
「花嫁からご両親への感謝の言葉、感動でしたね。ではいよいよクライマックスです」
彼は私に何かずっしりとしたものを手渡す。
「お父さん、お母さん」
私は春夫さんに支えられながらそれを構える。
「今日まで育ててくれて本当にありがとう」
言葉につまり春夫さんを見ると、励ますような目をしてうなづいた。
「私、絶対に幸せになるからね」
言い終わると私はライフルの引き金を引いた。轟音が式場に響き渡る。まず父が倒れ、続いて母に狙いを定める。
「春夫さん、スミレをよろしくお願いしますね」
それが母の最後の言葉になった。
もう動かない両親は、式場の人たちが直ぐにどこかへ連れて行った。それを見届けてから司会の男がまたしゃべりだす。
「最後の最後まで娘の幸せを願う親の気持ち、すばらしいものですね。立派に両親を送った花嫁に盛大な拍手を!」
私の両親よりと同世代かそれ以上だと思われる人が異様に少ない会場を見渡しながら私は思っていた。
子どもを育てるのが親の務め。勤めを終えたら潔く散るのが定め。私もいつか、春夫さんの子を育て上げた時、両親と同じように振舞えるだろうか、と。
comment form for this entry
comments
なるほど!そうきましたか!
最初の話とのリンク、おもわずうなってしまいました。
posted by :七瀬 | 23:10 Oct 27 , 2006
comments
感想ありがとうございます♪
一応伏線ちっくにw
痛い話が多くなりそうですが今後もよろしくお願いしますv
posted by :とも | 23:10 Oct 27 , 2006
comments
最初読んだのより増えてる!
普通の中にあるちょっと怖くて不思議な世界観。。最初読み終わったときなんかどきどきしてましたw
最近物語書くのが楽しいみたいですね♪
また次のお話楽しみにしてますv
posted by :まさ | 23:10 Oct 27 , 2006
comments
バスジャックに収録されてそうなイメージで(三崎さんに謝れ(汗))
もしくはキノの旅とか(時雨沢さんに謝れ(汗))
posted by :とも | 0:10 Oct 28 , 2006
comments
上手いなぁ
朝っぱらから笑ってしまったよ!
特に導入がとてもすき!
お気に入りの作家の一人になるかもです(笑)
posted by :みむら | 7:10 Oct 30 , 2006
comments
盛大にお褒め頂きありがとうございますw
どれだけ続くか判りませんが暖かく見守ってください(笑)
posted by :とも | 17:10 Oct 30 , 2006