Mar 9 , 2007
受話器の向こうで。
short short story
最近、ときどき家の電話が鳴る。
壊れてないから当たり前かもしれない。
けれど、携帯ではなく家の電話にかけてくる人は、珍しい。
相手は、いつも同じ人。
分からないけど。
いつもオオイシと名乗る。
「もしもし、オオイシですけど。ヨシノさんいますか?」
ヨシノは私の名前。
でも、私にはオオイシなんて知り合いはいない。
電話は、決まって平日の夜。
私がバイトに行っている時間帯にかかってくる。
だから母が、バイトから帰った私に電話があったことを伝える。
あまりに普通に名乗るので、昔の同級生か何かだと、母は最初勘違いしていた。
でも、小中高、どこを探しても、オオイシなんて男、知り合いにいない。
中学の時、そんな苗字のクラスメイトがいた。
でも、女性だ。
一度だけ、その電話を自分で受けたことがある。
「もしもし、オオイシですけど。ヨシノさんいますか?」
「ヨシノは私ですが。どなた?」
「は?ヨシノさんお願いします」
「ですから、ヨシノは私です」
「何がですか?ヨシノさんを出してください」
「ですから、ヨシノは私…」
「何言ってるんですか?本人を出してください」
「・・・」
「ヨシノさんとちょっと話がしたいんです」
「どのようなご用件ですか?」
「本人を・・・」
「どちらのオオイシさん?」
「だからヨシノさんを・・・」
彼はヨシノを出せと言い続けた。
私がヨシノだと何度言っても聞かず、本人を出せ、ヨシノはそんな声じゃなかったと言い、終いにはヨシノと話せないなら切ると言って電話を切った。
以後、ときどき電話はかかってくるが、私は一度も受けていない。
皆は、私をヨシノと呼ぶ。
そうだ。私はヨシノだ。
彼はなぜ、私をヨシノだと認めてくれないのだろう。
彼は何を、ヨシノに伝えたいのだろう。
昼間、私が家にいない間に、彼は電話越しにヨシノと話をしたのだろうか。
彼にとってヨシノはどんな存在なんだろうか。
私はヨシノだけど、分からない。
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comments
僕はよく名前を間違えられます(汗
勧誘の電話とかでもw
僕はほとんどそういう電話に出たこと無いんだけど。。
「そんなヒトうちにはいません」
うちの家族は決まってこう言います。
間違えてるだけなんだろうなってわかってるのにw
posted by :まさ | 0:03 Mar 10 , 2007
comments
勧誘の電話には有効策ですなw
しかし、赤の他人に自分を否定されるとは。。。
posted by :とも | 20:03 Mar 16 , 2007