Dec 4 , 2008
屋上のライ麦畑
story
『どさ』と『ぐしゃ』と『ごん』と『べしゃ』が入り混じったような乾いた音がした。
外がにわかに騒がしくなって、廊下を走る靴音が響く。
それでも、こんなことは、ここではそんなに珍しいことではない。
何ヶ月に一度かの割合で、人生に絶望したのか、希望を見出せなくなったのか、それともそもそも希望など存在しないことに気がついたのか、人生を達観してしまったのか、ひょっとして新しい可能性を試そうと思ったのかは知らないが、屋上か窓から地上へダイヴする人間が現れる。
そして、その中でも何十回かに一度の割合で、ダイヴァと目が合うこともある。
それも、ここへきて数年で慣れた。
傍から見たら不幸な傾向かもしれないが、当の本人はなんとも思っていない、むしろそれを含めたこの状況を案外気に入っているのだから、問題ないだろう。
人間性か人格のどちらかに問題があるのかもしれないが。
一日の仕事を終えて部屋に戻ると、同居人が本を読んでいた。
「何読んでるんだ?」
んー?と気の抜けた返事をして伸びをすると、表紙をこちらに向けた。
「じゃーん、発禁本」
「・・・。いつの時代の話だよ」
「知らないの?今でも有害図書扱いされてる地域もあるんだからね」
「知ってるよ。殺しに行くんじゃないぞ」
「分かってるー」
この世に、崖っぷちから落ちそうになる子どもたちを捕まえる存在は、いない。
屋上へ続く鍵の管理を厳重にするよう、明日こそ提言しよう。
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