Apr 21 , 1994
鴨川奇譚 第四話
story
土曜日の午後9時、俺とソノコは京都市内の旅館にいた。朝一の新幹線で京都に来て、一日観光。明日も少し観光をして、夕方の新幹線で帰る。そういうプランを立ててある。
「少し散歩でもしよう」
ソノコを連れて外へ出る。明るく振舞ってはいるが、行きの車内からずっと何かを気にしていることは気付いていた。『途中で降りれば、家に戻れる。』きっとそれを考えていたのだろう。俺は気付かないふりをしていた。せめて今だけは、何も考えずにいて欲しい。
鴨川には、噂に聞くように恋人たちが集っていた。川辺に並んだ彼らを橋の上から眺める。
「暑い…」
「水辺はだいぶ過ごしやすいよ」
「だな」
橋を渡り川を越え対岸に渡る。どこから見ても恋人たちは大勢いて、川の流れは穏やかだった。
「ありがとね」
「ん?何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」
それから来たときとは違う橋を渡り、コンビニに立ち寄ってから旅館に戻った。ソノコの白いワンピースがどうしてか、悲しかった。
目が覚めたとき、ソノコはいなかった。荷物もなかったし、布団もたたんであった。朝食の時間になっても戻ってこなかったし、チェックアウトの時間になっても同じだった。
「やっぱり…」
どうしてか、そう独り言ちていた。
comment form for this entry
Trackback URL this entry
http://color-chips.xsrv.jp/mt5/mt-tb.cgi/981